賃借物件が毀損した場合の賃料の減額請求、及び賃貸人の修繕義務とは?
建物を賃借していた際に、自分の責任でもないのに当該建物が毀損した場合、賃料をそのまま支払わなければならないのかという疑問が生じます。
例えば、AはBから事務所を賃借していましたが、居眠り運転のトラックが突っ込んできたために、事務所が半壊してしまいました。
減額請求、契約解除について
この場合、AはBに対し、事務所の滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができます。
さらに、事務所の残存した部分だけでは業務を遂行することができない場合、またはBによる修復費用が膨大になる場合は、賃貸借契約が解除されることになります。
・民法第611条:賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2.賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
なお、目的物の滅失によって賃貸借契約を解除せざるを得なくなった際に、賃貸人に帰責のあった場合は賃貸人、賃借人に帰責のあった場合は賃借人が賃貸借契約の解除に関わる損害賠償の責任を負います。
居住用の賃貸物件の場合はどうなるの?
居住用物件が破損または汚損し、生活に支障をきたす状況であると、賃借人に責任の無い場合は、賃貸人が修繕する義務を負います。
なお、賃貸人の修繕に関しては、新品にまでする必要はなく、通常に使用できる状態にすれば良いとされています。
・民法第606条1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
「生活に支障をきたす」の判断は通常、「住居としての用を成さない程度の破損」と捉えられており、以下のようなケースが該当します。
・給排水パイプが朽ちてきている。
・ガスの配管や、電気の配線に不備がある。
・建具や階段などが壊れかけている。
仮に、賃貸人が修繕を行わないために賃貸物件の一部が使用できなくなった場合、賃借人は民法第611条に則って、賃料の減額請求(賃料の一部支払拒絶)をすることができます。
実際に、排水管が詰まっているのに賃貸人による修繕が行われなかった事例で、賃借人による賃料の3割相当額の支払拒絶が認められた判例があります。
また、賃貸人が修繕義務を怠っていることから、賃借人が欠陥部分を修繕した場合は、賃貸人に対して直ちに修繕費用を請求することができます。
その際、賃貸人が修繕費の支払いに応じない場合は、賃料との相殺を主張することができます。
・民法第608条1項:賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
・民法第505条1項:二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
修繕義務の負担の特約を設けることは可能
民法606条の修繕義務については、当事者同士で異なる定めをすることができるため、修繕内容によっては賃借人に費用を負担するという特約を設けることも可能です。
一般的に、小規模な修繕については賃借人が行うという条項が契約書に記されています(大規模な修繕を賃借人に課す特約は無効です)。
なお、リフォームについては賃貸人に義務はありませんが、賃借人がリフォームしたことによって建物の価値が増加した場合は、賃貸借契約の終了時に賃貸人に対して「有益費」の償還を求めることができます。
・民法第196条2項:占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。(後略)
・民法第608条2項:賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。(後略)
賃借人の受忍義務はどの程度?
部屋の維持、管理に必要となる修繕は賃貸人の義務ですが、賃貸人による修繕がなされる場合は、賃借人はある程度の受忍が必要です。ただ、何日もの外泊を必要とするような大掛かりな修繕の場合は、外泊費の一部負担などを請求することは可能です。
・民法第606条2項:賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
賃貸契約はお互いさまということが多いため、権利を主張するだけではなく、よく話し合うことが最も大切です。
特に賃貸契約はお金に絡んできますので、一方だけの主張をすべて受け入れてしまえば、お金借りるほど多額な費用を請求されることもあります。
借りている方が立場が弱い部分と強い部分に分かれますので、しっかりと知識を身につけることが重要と言えます。
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